東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2614号・昭37年(ネ)2010号 判決
ところで本件のように借地上の建物が数次にわたり譲渡せられた場合においては、当初の賃借人から直接譲受けたもののみでなく、その後の借地権譲受人も亦借地法第一〇条にいわゆる「第三者」にあたるものと解すべく、また同条の賃貸人とは賃貸借契約の直接の当事者たる賃貸人だけでなく、その後の賃貸土地所有権の特定承継人をもふくむものと解するを相当とするから、控訴人金は被控訴人にたいし同条第一〇条による建物買取請求権を有するものというべきところ、控訴人金が被控訴人にたいし昭和三四年二月二一日午後三時の原審口頭弁論期日において本件地上建物買取請求の意思表示をなしたことは記録にてらしあきらかである。
被控訴人は控訴人金が所有した本件地上建物は右買取請求の前である昭和三一年一二月一七日火災により焼失し残骸となり、買取請求権行使の対象となりうる建物でないと抗争するので、この点について考える。
控訴人金所有の本件地上の建物が昭和三一年一二月一七日火災に遭つたことは当事者間に争いがなく、いずれもその成立に争いのない甲第三号証の一ないし三、同第一〇号証の各記載、原審における証人小野領四郎、同肥後義人、同植竹常之助の各証言をあわせると『被控訴人は火災直後たる同月二二日控訴人金及び当時の建物の共有者を債務者として「右焼失建物にたいする債務者らの占有を解いて執行吏の保管に付する。
執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者らに各占有部分の使用を許さなければならない。債務者らは占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。』旨の仮処分命令を得てこれを執行した(仮処分命令執行の点は当事者間に争いがない)。右建物は木造二階建一階六四坪一合九勺、二階三一坪七合八勺であつたが、右仮処分執行当時は火災のため屋根、二階の柱、壁の全部、床板の大部分は焼けおち、一階の壁、ガラス戸は焼くずれ、一階の柱の大部分も焼けて相当程度炭化し、わずかに一階玄関から向つて右側の六畳一室(三坪)のみが焼残つていたが、そのままではとうてい人の住みうる状態でなかつた。当時右六畳間に数人が居住しようとしていたので、執行吏は控訴人金の申請を容れ、雨漏りの防止その他人の居住に必要な最少限度の修繕を許可したところ、同控訴人は前記仮処分を無視して屋根葺、壁修理等を大体的に行い、昭和三二年九月二八日ころまでにはほぼ買取請求当時の建物を完成した。」ことを認めることができる。
ところで借地法第一〇条所定の買収請求の対象となるべき「建物」は地主に買取を強制する同条の建前からみて、相当の経済的価値を有し、社会通念上建物と認められる程度のものであることを要するものと解すべきところ、控訴人金が買受けた本件地上の建物は前認定のとおり前記仮処分執行当時においては火災による焼失建物の残骸としかみれない状態にあつたことあきらかであるから、同条にいう「建物」にあたらないものというべく、したがつて前記仮処分の執行当時の状況においては控訴人金は被控訴人にたいし右罹災建物につき借地法第一〇条による買取請求をなすに由なきものであつたというべきである。そして前認定のように控訴人金は現状変更禁止の仮処分命令に背いて罹災建物を改築したのであるから、同控訴人は仮処分債権者たる被控訴人にたいする関係においては前記仮処分執行当時における建物につき買取請求をなすのは格別、右仮処分執行後完成せられた建物につき買取請求をなし得ないものといわねばならない。
(高井 満田 中川)